明京夢紀行~A Journey of Reminiscences

閲覧注意

*本作は東方風を模した設定集で、ストーリーや設定は全体的に東方風で構成されていますが、東方風とは異なる点もあり、東方風と歴史創作の融合と見ることができるかもしれません。同名の東方風アルバムが本日リリースされ、現在のところゲームは存在しません。

*本作は二次創作で、東方導命樹の登場キャラである祟徳院天夢を主人公としており、海鮮堂公式作品ではありません。

*登場人物や出来事はフィクションであり、実在する個人や歴史とは関係ありません。

夢現の狭間を巡るこの旅を、十年の風物詩としています。

 

Prologue

旅の始まり

人の世から隔絶された幻想郷で、いつもと変わらない日があった。

人妖二界の皇、妖怪の山の権力者、日本国の大魔縁で、祟徳院天夢という大天狗は、山の住居で退屈そうに過ごしていた。

「仕事はすべて部下にまかせた。禍公たちもここにおらず、酒も歌も相手にならず、つまらぬことじゃ」

しばらく考えてから、彼女は机の隅の巻物に目を落とした。

 

「そういえば、写経は久しぶりじゃな…」

何を思ったのか、それともただ一瞬の思いつきなのか、天夢は巻物を拾い上げ、ほこりを拭き取り、ゆっくりと広げた。

「うーん…どれを写したらいいんじゃろう…」

「あった、これを…」

 

筆先が巻物に触れた瞬間、かすかに海の匂いがするような風が吹いてきた。

一文字、二文字、三文字…

 

字が少しずつひろがっていくうちに、天夢は自分の周囲の景色に、ただならぬ異変が現われていることに気がついた。

室内の光景は次第に色あせ、空間は歪み始め、渦のように彼女を引きずり込んでいく…

虚無の中、かすかに懐かしい音色が聞こえる——

鳥のさえずり、人波、子供の戯れ、葉がはらりと…

やがて、遠くの波の音だけが残った。

 

「『うぬ』はわしをどこに導いてくれるんじゃろう…楽しみじゃな」

 

「我が…会え…」

「…旅…果て…」

 

誰かのうわ言は、はるか光のない海底に、泡のように湧きあがり、すぐに静寂に帰した。

 

 

 

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追憶の道標

 

EASY 御殿桜の路

再び春の回廊を歩くと、桜の花びらが紛らわしく、まるで束の間に過ぎ去った安らかな時間のようだ。

安閑そうな花道には、風雨の兆しが潜んでいるのかもしれない。

 

NORMAL 伊予への流路

麗しき都より、荒海遠島に流されて、浮雲のごとく世を彷徨う。

しかし、苦しみの中に喜びを見出すことができれば、浮雲の休まる所も居場所と言えるだろう。

 

HARD白峰の雨路

白峰の雨は止まない。その間に漂うのは、いつまでも続いている怒り、忘れられない約束、それとも名残惜しい年月だろうか。

雨の道は歩きにくく、山道は延々と続き、くれぐれもお大事に。

 

ABYSS 悠久の夢路

遠い昔の事も残夢の滓を起こし、泥沼にはまったように窒息させる。

しかし、夢の中にも一筋の跡がある。これに沿って進んで、振り返る勿れ。夜明けが来て、旧夢が静かになるまで。

 

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浮世に憩う夢影

1. 天狗史編纂部部長

祟徳院天夢

「たまにはこうやって自分の『ニュース』を記述するのも、なかなか得難い経験じゃ。若輩者じゃなく、今回はわし自身が行かせてもらおう」

 

春秋の筆法で見聞を記録し、使い捨てカメラで撮影した現場写真に合わせ、末尾に独自の鋭いコメントを添え——大天狗様の手際は相変わらず、これで次の新聞大会では必ず優勝を手に入れるだろう。

 

高速射撃:六天の滝

低速射撃:大天狗のインスタント写真機

スペルカード:「無間修験道

 

2. 人世に潜む魔縁

祟徳院天夢

「人間だった頃が懐かしくなるとは、もしかしたら…まあ、久しぶりに人間として世を歩くのも、悪くないじゃな」

 

誰かに啓発されたのか、大魔縁は人間の姿になり、いつもとは違う衣装を身にまとい、少しワクワクした様子を見せていた。かすかな興奮の理由はわからないが、美味しいうどんを食べ尽くすためだけではないようだ。

 

高速射撃:血塗られた魔界文書

低速射撃:天夢流星伝

スペルカード:「迦楼羅天舞」

 

3. 世に懸かる斯許りの月

祟徳院天夢

「旅の途中、松の根を枕にして眠るのは何の粗末なことか。わしの玉座も、俯仰之間に朽ち果てたではないか」

 

旅に出たとき、彼女は尋常でないことに薄々気づいていた。故人に会うからには、旧時の姿で、故地を再遊しようと。

ただ、旧時の心は、もう昔の残稿と一緒に、八百年余りの時の流れに散逸していたのかもしれない。

 

高速射撃:詞花百首の残編

低速射撃:瀬水合流の誓い

スペルカード:「恋ひ死する孤鳥」

 

Stage 1 水鳥が詠んだ懐土

鼓岡神社

伊予の二名島に残る遺跡は、終わりのない海風に吹かれている。

ホトトギスの啼き声が再び響き、紫の煙の中を帰らぬ望郷へ流れて行った。

 

BGM:流るる波が風を逐う

天夢:ここだったとは…風景はあの時と比べても、それほど変わらないようじゃが。

??:やっと待って来たぞ。何百年にもわたる我らの怨嗟と怒りを味わってみようかい——

伊予 不如帰 登場

不如帰:——と言いたかったのだが。

不如帰:でも、さっき一瞬、もっと素敵なセリフを思いついた——花は根に、鳥はふる巣に。ではあんた——伊予の二名島に囚われて死んだ哀れな者よ、ようやく故郷に帰ってきたのか。

天夢:ほう。小さな鳥もわしの歌を知っておるか。しかし、これは無断引用じゃろう。無断転サエと同じくらい悪質じゃ。

不如帰:だ、ダサくないもん!我らの美しい鳴き声を、騒音だと思っている人間のセンスの悪さのせいだ!そもそも、すべての元凶はあんただったんた。

天夢:うむ、ということは、まさかうぬは…

BGM:死出の山唄~Ancient Nostalgia

不如帰:考える時間はここまで。次は復讐の時間よ!

天夢:ふん、小鳥というのにやかましいぞ。墓の土はまだ厚さが足りないと思っておるんじゃろうか。

伊予 不如帰を撃破

不如帰:ゴホ、復讐者を演じるのはやはり骨が折れる。どうやら演技はまだ上手じゃないようだな。

天夢:やはり、うぬは鼓岡のホトトギスの霊じゃろう。

不如帰:気づかれたな。どうりで、さっきは手加減してたような気がしたが。

ここの人々は、あんたをあれほど尊敬し、鳴き声があんたの心を痛めることを嫌って、我らを捕らえて殺したのだ。

不如帰:しかし、やつらも塚を建てて、我らの魂を供養してくれた。たとえ怨みがあったとしても、今ではもう晴れてる。今日あらわれたのは、あんたに挨拶をしようと思ったから。

天夢:あの時、何気なく詠った歌のせいで、うぬらは殺された。今、無礼な鳥めを許したこともわしの償い——さもなくば、うぬぐらいの腕前では、わしの手から生き延びる心地がしない。

不如帰:へえ、やっぱり恐ろしい大魔縁——そもそも、我らも讃岐の住人なのだ。あんたに対する人々の敬意は、多少は我らの分でもある。

不如帰:これから疲れになったら、こちらへ戻ってきてみよう。あんたが住んでいたところは、もう一面青々とした野菜畑なのだぞ。

天夢:なかなか筋が通っておるじゃ。歌を作って贈りませぬか。

不如帰:や、やめとこう…!あんたの書いたもんは、なんだか不幸を招くような気がする…!

あの方が流されるまでは、鼓岡一帯にはホトトギスが多く生息し、村人たちと山野で暮らし、平和な日々を過ごしていた。

 

あの方は和歌を愛してた。ある日、鼓岡のホトトギスの鳴き声を聞いて、故郷を思い、一首の歌を詠んだ。

これを知った村人は、上皇様に鳴き声を聞こえないよう、近くにいたホトトギスをすべて捕獲し、殺したという。しかし、村人も鳥の無実を知っていた。その後、村人たちは鼓岡にホトトギス塚を立てて、罪のないホトトギスの魂を供養した。

その方への崇敬が、鼓岡のホトトギスにも深く影響を与えていることを、村人は知らなかった。昔、ホトトギスたちは鳴き声をあの方に聞かれないように、ケヤキの葉を捲ったり、くちばしにくわえたりして、声をひそめていた。それでも、村人の捕獲から逃れることはできなかった。

 

不如帰はホトトギスたちの霊だ。彼女もかつては村人の行為を怨んだ事もあったが、昔の事は煙と化して、その怨みも無数の月日を経て消えていった。

一番高い枝に腰かけて、煙る海を眺めていると、自分もこの伊予の二名島の一員なのだと、誇らしく思う。

結局のところ、復讐のようなことを考えるのは苦手なのだ。

 

スペルカード:

夕影「讃岐の霊鳥」

懐郷「災いを招く流歌」

玉章「鳴くに忍びない木の葉」

泣血「時鳥鳴くや、塚に彷徨う」

「帰るに如かず、哀れな世」

 

ホトトギスの羽

騒々しい鳥が去る前に残された羽には、昔の歌の郷愁が宿っているようだ。

花びらのようにふわふわした羽が、夢にまで見た故郷へ連れて行ってくれるかもしれない。

Stage 2 断絶悪縁 欣求良縁

安井金比羅宮

祇園の繁華街に隠れた小さな神社は、今日も多くの人が訪れる。

来し方も行き先もわからない「縁」は、善か悪か、捨てるべきか残すべきか、知る人はどこにもいない。

 

BGM:花咲く祇園小路

天夢:確かに故郷に帰ってきた…が、予期せぬ事態になったのじゃろうか?!

天夢:参拝者が多いとはいえ、わしが崇められておる証だが…いや、そんな簡単なことじゃないような気が…

??:そこのお嬢さん~少々お待ちください。

天夢:わしのことか。

華尽 実乃留 登場

実乃留:そう、そう。お顔色もよくありませんし、悪縁に取りつかれているようで、いずれは災いに見舞われることでしょう。この妙なる縁切り鋏で…

天夢:ふむ、小さな鋏でわしの悪縁を断ち切ろうとするのは、あまりに身勝手なのじゃ。

天夢:ところで、もともと崇徳上皇が祀られていたと聞いたが、なぜこのようなことに…

実乃留:悪縁を断ち切るために来られたのではありませんか。

実乃留:まあ、見れば分かると思いますが、昔も今も「縁」は逃れられない枷なのです。罠だとわかっていても、はまってしまうの。ならば私は、少しだけ恋に落ちた人々の悪縁を断ち、良縁を結ぶだけです。

天夢:瀬をはやみとか、恋ひ死なばとか…さすがのわしも昔はそんな愚な心を抱いてたのじゃか、ふん。

実乃留:その口ぶりで、人知れず過去もあるようですね——感情を弄ぶ悪い奴に出会ったのでしょうか。

天夢:どう推測してもいい。どうせうぬではどうすることもできぬ。

実乃留:何がいけませんか。別の言い方をすれば、「偽薬」のようなもので、ここで祈ることで、自分の中にあるわだかまりが解けて、前に一歩を踏み出すことができるかもしれません。ポジティブな気持ちが幸運をもたらす、ということでしょう。

天夢:残念ながら、わしの身に絡みついてる悪縁は、そう簡単に断ち切れるものじゃない。逆に、うぬのくどい巫女を喰らってしまうかもしれん。

BGM:華尽染分恋語録~A Fruitless Love

実乃留:脅威を恐れませんわ——花が散ってこそ果実が残る、悪縁が絶えてこそ良縁が結ばれる。

「悪縁」を断ち切れるかどうか、試してみましょう!

華尽 実乃留を撃破

天夢:如何、わしの悪縁を断ち切れたか。

実乃留:あら、見間違ってしまいました。閣下自身が「悪縁魔縁」そのものであるとは思いませんでした。もう、どうしようもありませんわ。

天夢:ふん、もったいぶったことを——最初から気づいていたのじゃないか。

実乃留:そうかもしれません。結局のところ、「私」もあなたの過去から生まれてきたんです。

実乃留:浮世の泡影に耽り、露の生滅に心を傷める。これは愚かであり、人の心でもある。

でも、傷だらけのことに溺れなければ、自分と自分も、「良縁」ではないでしょうか。

天夢:詭弁じゃが、それにも一理ある。

実乃留:お褒めにあずかります。悪縁を断ち切りたくなったら、いつでも来てくださいね。成功しなければ料金はかかりませんよ。

天夢:まずはそのくどい舌切っておこう。

「悪縁を断ち切り、良縁を結ぶ」と願う人は、いつの時代も少なくない。

かつて讃岐に流された「崇徳院」も、同じように「すべての欲望を断ち切る」ことを願い、金刀比羅宮で修行を積んでいた。

しかし、「欲望を断ち切る」そのものが、欲望ではないだろうか。そもそも、人間という生きものは、本当に欲望なく生きられるのだろうか。

かつての天夢は、悪縁欲望を断ち切るという願いは叶わなかったが、彼女の修行の積み重ねが、実乃留の誕生につながったことは確かなことだ。

 

最初のうちは、何かの偶然というか、自己暗示というか、安井金比羅宮に参詣して、思うような結果を得た人もいた。それが口コミを経て、安井神社は「霊験のある縁切りの場」として、多くの人に信仰されている。

実乃留は「悪縁を断ち切り、良縁を結ぶ」という神徳の化身。

参拝者の願い事を聞けば、少し手を差し伸べ、悪縁を切ってあげたり、ついでに良縁のきっかけをつくったりする。しかし、彼女にできることは、ほんの一部だ。その後がどうなるかは、人間の洗練と「心」の強さにかかっている。

時折、巫女の姿になって境内をぶらぶらしながら、絶え間なく行き交う参拝者たちを微笑みながら眺めている。憂い、胸騒ぎ、喜び、恥じらい——人間百景は、すべてその中にある。

 

そもそも「縁」とは、流れる風のようにゆらゆらしているものだ。

しかし、その儚さを知りながら追いかけ、その短さを知りながら祈り続いている——

たぶん、それこそ人間の愚かさでありながら、愛らしさでもあるのだろう。

 

スペルカード:

縁起「蓮華光院の夢の跡」

櫛祭り「靡く髪は久志塚に」

御守「桃は切り、赤は結び」

参籠「万念断絶の祝禱」

「愛憎夢幻、諸縁断滅」

 

悪縁切守

実乃留が贈った御守で、悪縁を断ち切る効果があると言われている。

後で役に立つかもしれない。しかし、それを使うかどうかは人によって違うだろう。

Stage 3 桜藻月花伝

月花幻境

忘却に忍びず、故人の影を。その根源を問えば、幻にすぎぬ。

出会いに歌を合わせ、別れも同じ。そんな花月の間に、悔いが残るものか。

 

BGM:雨月の果てに、虚妄の桜

天夢:また見覚えのある場所じゃ。

天夢:…いや、夢見た場所と言うべきかも。

??:やはりいらっしゃいました。

天夢:君か……やはり、この幻境に入ったときから、君だと思っていた。

佐藤 義清 登場

義清:なぜそう確信するのでしょうか?

天夢:この満月と満開の桜、君のほかに、誰の趣味がこんなに野暮ったいのじゃろうか。

義清:野暮ったいって…本当ですか。

天夢:否、嘘じゃ。

義清:……

天夢:「夢のうちにぞ咲きはじめける」——という光景は、夢の中でしか見られないのじゃないか。

義清:昔より素直になりましたね。

天夢:なにしろ、今言わぬともう二度とできぬこともあるじゃろう。

義清:そう…だな。浄土に行く前に、またこんな姿でお会いできるとは、拙者も思いませんでしたが。

天夢:俗世の未練を断ち切れば、浄土へ行けるのじゃろうか。佐藤殿は本当に洒落てるじゃな。逆に、わしの言いたいことは山ほどある。しかし、この虚妄の影に対して、どう言うのじゃろうか。

天夢:所詮、あのくどい巫女が悪縁切守を与えたのは、わしに悪縁を断ち切らせようという思いがあったからじゃろう。

義清:…それをお使いになりますか。

天夢:ふん、いつ君との縁を“悪縁”と見なしたか。

天夢:君は何も間違っていなかった。勝手に約束を破り、勝手に黙って立ち去り、勝手に仁和寺を訪ね、勝手にわしの墓に参りに行っただけじゃ。

義清:お怨念は相当なものに聞こえますが…とはいえ、まことに拙者が悪いのです。

天夢:それはそうじゃな。まだ君に味わってもらえていない怒りはたくさんあるぞ。

義清:どうやら、白峰の時はまだまだでしたね。

BGM:春花散らぬ望月庵~Drowning in the Spring Sky

天夢:ふん、それじゃ足りない…

ここがたぶん最後だから、最後に——

もう一度、君に怒りをぶつけてみよう。

義清:それはお言葉に甘えていただくしかありません。

佐藤 義清を撃破

義清:…で、ちょっと、ここまで…!

義清:大変ですね。何年も会わないうちに、あなた様はここまで強くなりました。

当初、あなた様を守ると約束しておきましたが、今から見れば、拙者は身の程知らずです。

天夢:ふん、約束を破った君は、よく言うわ。

今のわしには、もう誰かに守ってもらう必要はない。

天夢:しかし…もしやり直せば、そうなるとわかっていても、再び君とその約束をすることを選ぶじゃろう。

義清:……

義清:今はしばしお別れだけです。ご覧ください——

海風は暖かく、海鳥は巣を作り、波の景色は変わらず、月は輝き続けています。

天夢:そこに行こうか。

義清:ええ、紆余曲折はありましたが、拙者は——いや、私はついに穢土を脱し、浄土へ赴くことが出来ました。

天夢:これが所望を遂げるということか。ただ、わしのような罪深い者は、永遠に浄土には行けぬじゃろう。

天夢:まあ、浄土はよくても、わしには到底合わぬ。この穢れた身には、よっぽど穢土が似合うじゃ。

義清:この世に留まる時間はもう限界です。これからは、穢土でも浄土でも、どうかあなた様に……

(虚影が消えていく)

天夢:…さらば、義清。

春の夜、望月の時、桜の花びらがひらひらと舞い散って、夢幻のようだ。

この光景を見るたびに、天夢はある故人のことを思い出す。その故人は、和歌で名高い西行法師、佐藤義清だった。

 

その頃、天夢は和歌を愛する少女であり、彼の優れた歌才と深い洞察力に、どれも惚れ惚れしていた。身分の差があっても、二人はときどき歌を合わせ、素晴らしい時間を過ごしたことがあった。

然し、世の中ははかなく、美しい光景がいつまでも続くものではない。ある日、義清は世を捨てて出家し、浮世の様々な悩みと手を振って別れた。その原因は、かねてから推測されていたが、結局定説がなかった。

もしかすると、義清から見れば、現世は無常穢土にすぎず、すべての繁栄は雲煙過眼であり、

ただ彼方の浄土こそ、一生をかけて探し求めるべき場所だと思っていたのかもしれん。

 

その後、天夢側は保元の乱で敗れ、彼女自身も仁和寺に幽閉された。それを知って、すでに俗世から遠ざかっていた義清は、仁和寺に見舞いに駆けつけたが、結局二人は会えなかった。

天夢は讃岐に流された後、寂しさの中で義清に和歌を送り、慰めと救いを求めた。しかし、彼女の熱い気持ちに比べると、義清の対応はやや冷たかった。もしかしたら、彼女が今の恨みを捨てて、救われてほしいと本気で願っているのかもしれん——物語の結末は彼の望み通りではなかったが。

 

天夢が亡くなった後、彼は山を越えて讃岐に行き、墓の位置を詳しく記し、荒涼とした墓の前で、哀しげな歌を詠んだ。

それから数年後の春の夜、生涯桜を愛した義清は、願い通り望月の桜の下で最期を迎え、後世に不朽の伝説を残した。

 

歴史の片言から綴られたこの物語は、後世の想像にすぎないかもしれない。「事実」がどうなのかは、おそらく物語の人々にしか分からないだろう。

唯一確かなのは——この世の名残惜しいものと美しい願いは、たいていこの春の空や、この満月や、この花のような——瞬く間に跡形もなく消えてしまうものだ。

 

スペルカード:

忘桜「忘るなという偽契」

恨月「影も変はらず澄む月」

追想「歌が導く山道」

自歌合「御裳濯河三十六番勝負」

「変はらぬ波となかりける君」

 

昔の短冊

少女が宮中にいた頃に書かれた短冊は、故人に大切に保存されていた。それが、ようやく元の持ち主に戻ってきた。

かすかに残る桜の香りは、昔の御殿への道標かもしれない。

Stage 4 久しぶりの故園の白石の坪

御所内里

小さな蝸牛は、四つん這いになり、懸命に体を動かしてこそ、牛馬に踏み破られないのだ。

姿が醜くても、楽園へ連れて行ってくれる人がいないことを知っていても。

 

BGM:御謡曲に戯れて

??:お姉さん、蹴鞠に付き合ってくれないか。

天夢:うぬは……もしかして…?!

天夢:…まあ、ここにいる者も、偽りの残像にすぎない。心を乱す必要はない。

本当のこいつは、とっくに地獄に堕ちたのじゃろう。

行真院 真佐非 登場

真佐非:うん…見覚えがあるようだ。

真佐非:あ、勘違いしないで、そんな古臭いやり方で女の子に声をかけたりしないし、君は僕のタイプでもない。

天夢:残像にもかかわらず、こいつは相変わらず無駄話ばかりしておるんじゃな。

真佐非:ね、蹴鞠に付き合ってくれないか。負けたやつは、かたつむりになって、馬に踏まれて死んでしまうぞ。

天夢:ふん、生憎、わしも子供のおままごとに付き合う興味はない。好みのタイプを探してみよう。

真佐非:それは困る…見ての通り、この庭にいるのは僕だけだ。

王姉さまが遊んでくれたんだけど、今いなくなっちゃって、どこにもいないんだよ。

真佐非:まさか、カタツムリになって、「バチン」と踏まれて死んだのか。

天夢:もしそうなったらどうじゃろう。それとも、うぬも寂しい思いをする?

真佐非:寂しくなんかない。この小さな庭で、梁の上の土ぼこりが落ちてくるほど、思う存分歌っていた。

草むらに足を踏み入れて、最も愛しい虫を選んで、庭へ連れていって遊んだりもする。這うことができないものを、道に捨てて、踏み破られるのを見る。

真佐非:こんな楽しい日々に、寂しくなるわけないだろう。

天夢:うぬに一抹の期待をするほど、わしは愚かなのじゃ。やはり話がかみ合わぬじゃな。

天夢:本気にならないうちに、おとなしく道を譲っておこう。

BGM:梁塵酔狂歌~A Lifelong Indulgence

真佐非:失礼だわ!勝手に僕の庭に入って来た君を、簡単に出て行かせる訳には——

遊ぼう!僕と、虫たちと、ほこりと、君自身と——遊ぼうよ!

行真院 真佐非を撃破

真佐非:いやぁ…僕が負けたとは…僕が踏みつぶされそうになるわ。

天夢:やはり、真実であろうと幻であろうと、うぬが嫌なのは同じ。

こんな嫌な蝸牛を踏み潰しても、靴が汚れるだけじゃ。

真佐非:おお、皮肉で好きな言葉だ。

真佐非:でも、敵に対する過剰な慢心は、君の命を奪うかもしれない。

八万の皇図は夢となり、三千の極楽は苦に終り——となれば、口で言うほど簡単なことではないぞ。

天夢:これを教えてくれなくてもいい。結局、最後の結末は、とっくに決まっていた。

真佐非:実は、さっきまで思っていたが、ひょっとして君は王姉様なのか。

でも、今は確信している。君は「彼女」ではない。

天夢:…なぜ?

真佐非:だって、王姉さまは、一度も僕に勝ったことがないんだもん、へへ。

でもおかしい、いったいどこに行ってしまったの。

天夢:探さなくても、いつか、地獄でまた会えるじゃろう。

真佐非:うん、僕もそうだと思う。

真佐非:ふぅ…疲れた、帰って休むぞ。遊んでくれた君に、一言忠告しておこう。

地獄に落ちても、思う存分歌おう。そうすれば、踏みつぶされるその日まで、ずっと愉快なカタツムリなのだ。

天夢は今、妖怪の山で悠然と大天狗としての第二の人生を楽しんでいる。

しかし、「日本一の大天狗」と呼ばれていたのは、天夢の異父妹である別の人物だった。

もちろん褒め言葉ではなく、ある有名な武士が、天狗のような陰険さを皮肉ったことに由来している。

 

第四皇女として生まれた彼女は、諸種の事情から、あまり期待されていなかった。彼女はそんなことは気にしていないようで、毎日思い切り遊び、マイペースな日々を送っていた。

貴族の間で流行した風雅な和歌よりも、庶民の歌謡である今様に夢中になっていた。彼女の遊び相手は、貴族階級の御曹子や令嬢だけでなく、庶民出身のさまざまな人たち、さらには雑役や遊女まで…

興味が湧いてきたら、彼女は一晩中歌って、喉が痛くてたまらないまで休まなかった。

皇族にとっても、天夢にとっても、彼女の行為は不可解だった。

 

天夢はその日になってようやく、その世間知らずな外見に隠された残酷さと野心に気づいた。

あの動乱の中で、真佐非側が天夢側を破り、様々な意味での「家族の争い」はついに幕を閉じた。

敗れた天夢は讃岐に流され、その追随者はことごとく流罪か処刑され、天夢が写した五部大乗経でさえ、呪詛がかけられているとして送り返された…これらもすべて彼女の手によるものだ。

 

その後の世相は歴史に記されているように、武家勢力が表舞台に登場し、王権はますます衰退していった。

彼女がどのように武士たちを挑発し、どのように各勢力を翻弄し、同時に情勢に翻弄され、どのように何度も幽閉され復権され、どのように歴史の波風の中で人生を遊んだかは、すべて後の話だ。

 

彼女はカタツムリが好きで、ペットとして飼っている。

小さなカタツムリが草むらを懸命に這う姿は、彼女にとって最も面白い景色。しかし、カタツムリが這わないと、彼女は興味を失い、やつらを道端に勝手に捨ててしまう。

たまにカタツムリを手に取ってからかったり、遊んだりしながら、子どものような笑顔を見せる。

しかし、彼女が手にしているカタツムリは、昨日と同じものではないかもしれん。

 

スペルカード:

今様「梁塵秘抄口伝集」

難解「百年の身に、千日の歌を」

諷詠「讃岐の歪んだ松一本」

仏心「狂言綺語にも真ある」

「蝸牛、木を登りつめても天が遠い」

 

やや古びた蹴鞠

やや古びて土に染まった蹴鞠も、かつては誰かの愛しいものだ。よく見てみると、その細工が凝っていて、粗物ではないことがわかる。

ただ、炎が天を突いてすべてを燃やした日まで、彼女は結局「王姉様」と一緒にそれを蹴飛ばすことができなかった。

Stage 5 空夢の帰る場所

帰京通り

飛鳥井家の故地は、今も姿を変えている。

白峰の夢跡も、真に帰ってきたのだろうか。

 

BGM:白峰漫想譚

??:ねえ、蹴鞠をしませんか。

天夢:…なぜ蹴鞠しなければならんじゃろうか?!

飛鳥井 千寿紀 登場

千寿紀:え?でも持っているのは蹴鞠なのに——それも気に入りの伝統的なもの。

天夢:あっ、あいつの…でも今のところ、蹴鞠をする趣味はない。

天夢:ところで閣下はどなたじゃか。

千寿紀:ここは飛鳥井家の故地で、今もあなたを祀っています。私はというと、ここの地主神なの。

千寿紀:せっかく帰ってきたのですから、客としての礼儀を果たさなければなりません。主人の誘いを断るのは、マナーではありませんよ。

天夢:すると、閣下は精大明神じゃな。だからと言って、無理矢理客にあれこれさせるは、主人の接客とは言えぬじゃろう。

千寿紀:親善試合ですから、緊張しなくていいよ。

天夢:試合をするつもりもないのに、なにか緊張するんじゃ。それより、閣下の方には、余裕があるようじゃな。

千寿紀:もちろん、こんな格好をしていても、いくら神ですから、スカートにつまずいて倒れたり、土の匂いを味わったりはしません。

天夢:わざわざ強調するとますます怪しい気がする。もしかして、実は…

千寿紀:ゴホン、他人には言えない秘密ですよ。

天夢:何しろ、蹴鞠の神様が運動苦手だとは思わぬじゃろう。

千寿紀:あなただってそうでしょう。自分は悪縁に取りつかれているのに、悪縁を断つ神格があります。あなたと血縁のある方も、ご自身は海に沈んだのに、信者は水天宮に安産と水難よけを祈っています。

天夢:とすると、前世で蹴鞠に足を取られて転んで死んだということか。

千寿紀:神々の不思議な死に方に比べて、これは珍しいことではありませんが——いや!そういうところはあなたたちとは違います!

千寿紀:そこまでなめられている以上、本気を出さなければなりません。鞠壺は小さくても、四方の天地があります。遠く帰ってきた者よ、芸道の神様の挑戦を受ける度胸がありますか。

天夢:「道のべの塵に光をやはらげて神も仏の名のるなりけり」、我が国の神は、和光同塵であるべきじゃ。

閣下のようにしつこいのは、神々の中でも末流かも——その挑戦は、受けるのじゃ。

BGM:鞠壺にも四方天~アリ、ヤウ、オウ!

千寿紀:ちょうど、ここは神徳の地で、塵も土も霊物ですから、負けたら、それをよく味わえばいい!

飛鳥井 千寿纪を撃破

千寿紀:や、やっぱり…

天夢:神徳あふれる土の味、なかなか美味しいじゃな、蹴鞠の神様よ。

千寿紀:…ゴホン、甲子園よりましですね。

天夢:意外に幅広い仕事をされておるんじゃ。そういえば、あそこに陳列されている記念物は、もはや「蹴鞠」とは言えぬじゃろう。それで信仰の危機に陥り、別の道を切り開かなければならなくなったのじゃろうか。

千寿紀:半分しか当たっていません。人がいる限り「信仰」は消えないが、信仰の指向は流転し続けます。少し離れたところにある晴明神社に、いつからかあるスポーツ選手に祈りを捧げる絵馬が飾られているようなものです。

天夢:ほお、そちらを訪ねたこともあるんじゃ。

千寿紀:もちろん、地主神であって地縛霊ではありません。

千寿紀:むかしの蹴鞠と、今の「サッカー」、そしてその他の球技とは、もちろん同じものではありません。

でも、平安京で妖魔を祓う陰陽師も、氷の上で舞う陰陽師も、人々の「信仰」と言えるのではないでしょうか。

千寿紀:ならば、飛鳥井家も、今の青い侍たちも、蹴鞠信仰の伝承のしるしであり、私が守り続けます。

三年後、また若者たちの勇ましい姿が見られるかもしれませんよ!

天夢:良かろう——しかし、今度は転ばないように祈っておこう。

千寿紀:これは別です!

千寿紀:まあ、それはさて置く。あなたの魂は帰ってきましたが、もう帰ってこられないものもあります。

天夢:と言いうと…

千寿紀:「帰れぬもの」については、私よりもあなたのほうが詳しいでしょう。

天夢:散々寄り道して、それが言いたかったんじゃか。

まあ、わしも「それ」に会いに行かなければならん。

蹴鞠の技で知られる飛鳥井家の守り神である。

そもそも、物語の主人公である天夢とは、あまり接点がなかった。その日まで、明治天皇は讃岐にいた崇徳院の霊を京都に迎え、飛鳥井家の敷地に白峰神宮を建立し、霊を祀ったという詔書を出した。

それ以来、彼女はこの「ご近所さん」に興味を持つようになった。彼女の腕前で、天夢の過去を知るのは難しいことではない。しかし、「日本国の大魔縁」「三大怨霊の一人」などというおぞましい称号を持つこの人は、果たして伝説の通りなのだろうか。

その「隣人」に会いたいと思いながら、なかなかチャンスがなかった。

 

音もなく水のように時は流れ、飛鳥井家も徐々に歴史の舞台から姿を消していった。木々が青々と茂った小さな神宮は、静止した時間の中に停泊しているようで、遠くから帰ってきた魂の小さな港のようだ。

やがて——いつのまにか、参拝者が神宮を訪れ、上達を祈ったのは蹴鞠芸ではなく、サッカーというスポーツ、そして他の彼女にはよくわからないものだった。

好奇心を抱いていた彼女は知ってみると、「サッカー」というのは蹴鞠とは違う、というか、ずいぶん違うのだ。しかし、彼女はそれで不満を抱いていなかった。

——たとえ「蹴鞠」の形が変わっても、その執着と熱意は、昔のままではないだろうか。

 

実は、彼女は蹴鞠だけでなく、和歌など多くの芸能の守り神でもある。蹴鞠にしても、和歌にしても、その他諸々の技にしても、百戦錬磨でしか精進はできないんだ。まさに、藤原成通が千日を経て、ようやく蹴鞠の霊の姿を垣間見ることができたようだ。

他力本願の心で、神のご加護だけに日々を寄せていたとしたら——それが神であり、そんな者には決して目を向けないんだ。

 

蹴鞠、和歌、書道、武道…様々な芸は、歳月の流れの中で、本来の姿を変えたり、他の芸能を融合させたり、新しい流派を生み出したり、完全に新しいものになったりするのは避けられないことだ。しかしいつでも、自分の望むもののために磨き続けるその執着は、誰かの中で輝き、永遠に続いていくのだろう。

そんな揺れざる芸道の心こそ、彼女が何千年も守り続けたいものなのだ。

 

スペルカード:

乞巧「七月七日の小町踊り」

式木「艮桜巽柳、坤楓乾松」

千日鞠「夢に見る三匹の猿」

凱旋「蒼き武士の盟約」

「飛鳥井杯蹴鞠祭」

 

写経の欠片

流人の魂とともに都に還った遺物には、まだ一筋の血痕が残っているようだ。

かつて、呪いがかかっているとされて讃岐に戻され、何度か世が変わってから、その片割れが転々と故郷に帰ってきた。それに沁み込んだのは懺悔なのか、呪詛なのか、それとも他の感情なのか——

それを書いた墨と血のように、とっくに絡み合っていて、見分けがつかないのかも知れん。

Stage 6 血塗られた写経の獄

怨嗟の海

血書の経は深い怨念を発散し、まるですべての光を遮る赤い獄のようだ。

憎しみの音しか聞こえないはずの檻の中に、かすかに波の音が響っていた。

 

BGM:僧か魔か~Monk or Monster

天夢:狩衣袖の涙にやどる夜は月も旅寝の心ちこそすれ——

残念ながら、旅の果てにはこんな趣味悪い下宿とは。殺人現場のような配置が、ここの閑散とした理由じゃろう。

天夢:そうなると、鳥でさえ巣を作るまい。

??:罪深き、未だ悟りなき者よ、煩悩の火宅を往復するわけにはいかん。

懺業寺 華厳 登場

華厳:どうやら、汝も自分の趣味が並大抵ではないことを知っているようだ。どう、この血塗られた寝殿造りは。

天夢:この牢屋が寝殿造りというなら、道端の松の根も上等な寝具と言えるじゃろう。

華厳:我は八百年も牢屋にいたのは、すべて汝のおかげだ。

天夢:やはり、あのとき、経を海に投げ捨てて…ぐっ、波の下にも都有り、千尋の底にも安住の地があったのではないかと言った者がいたが——

世の中は苦海のごとし、こんな清浄な場所にうぬを置いてきたことに感謝すべきではないか。

華厳:こんな話、六歳の子供だって信じないだろう。

天夢:それは本人に聞いてみないとわからなぬもんが、お会いできればの話じゃよ。

天夢:まあ、わしが部屋で写経を始めた時から、うぬはそんなことを考えていたのじゃろう。

華厳:好きじゃないの。この追憶の旅こそ、久しぶりの旧主への贈り物よ。

汝もこれまで、色々なご縁の方にお会いになったはず。気分はどう。

天夢:だいたい、途中で出会った奴らは…本当はわしに会ってみたかっただけじゃろう。そして、うぬも同じ。

華厳:否定しないわ。かつて様々な感情を我に託しながら、我を海に捨てた無情な旧主に、会いたくないわけがないんだろう。ただ、あいつらが汝に会いたいという気持ちは、我に負けていないとは思わなかった。

天夢:だから、わしをここに連れてきたのは、過去のことを思い出させ、自己和解の芝居をさせるためか。

天夢:その独りよがりはわしらしいが、残念ながら、一つ誤算をしていた。

わしが憎んでいるのは、最初から最後まで「わし」ではない。恨みもない以上、和解する必要もない。

天夢:まあ、たまにはこうやって体を動かすのも悪くないんじゃが。

華厳:そんなことを平気で言えるとは…さすがは我が旧主。

華厳:しかし、過去数百年、世の中も何度も変わっていた。汝も成仏して極楽へ行ったと思っていた。

なのに、人でも魔でもない姿で、娑婆の世に息抜きしているとは——なんという凄惨な、嘆かわしいことだろう。

天夢:迦楼羅の面被つて世の中を歩くのは、人間でなくても構わん。

天夢:よく聞け——わしの名は祟徳院天夢、妖怪の山の大天狗、人妖二界の皇であり、日本国の大魔縁でもある。

昔も今も、これからもそうじゃ。

天夢:わしが成仏できるかどうか——「うぬ」はよく知っておるじゃないか。

華厳:そう…汝のすべてを知っている。その秘められた心も、誇りも哀れも、闇も陰険さも、すべて知っている。

華厳:我を浄土に行かせなかった張本人——汝が我が身にかけた怨念と呪詛も、当然知っている…!

天夢:やはり、「うぬ」には察しがついた…

ああ、そう、そうじゃ。確かにあいつは、わしを悪くは思わなかった。呪いがないわけがない、その怒りは一度も離れたこともない——

天夢:……

BGM:陽炎涅槃懺悔呪~Confession or Curse

天夢:望むものは、何一つ

華厳:たった一死、窮余一策

天夢:この経を、魔道に回向す

天夢&華厳:皇を取って民とし、民を皇となさん!

天夢:恨みが晴れるまで地獄に落ちるまで、うぬとわしは——

天夢&華厳:永遠に苦海の中でもがき続けよう!

スペルカード(表):

遍照「毘盧舎那の明かり」

薬草喩「三草二木とも法雨を受け」

妄尽「海印三昧」

涅槃「常楽我浄」

懺業寺 華厳(表)を撃破

天夢:生半可な懺悔と、生半可な呪いとは、所詮そんなもんじゃ。

わしが写した経には、少なくともわしの半分の実力があるはずだと思っていたが、期待外れだったようじゃ。

華厳:なるほど…今となっては、不完全なものは必要ない。

我が旧主よ、我が本当の姿を忘れたのか。

華厳:汝の怨みは色褪せておらず、我が身をめぐる血色も然り。

散りゆく花は最も鮮やかで、汝の姿もその色に染まったら、何と哀れなこと、美しいことになるんだろう…!

スペルカード(裏):

翳観「空華生滅の妄見」

娑婆「悪世五濁」

火宅喩「三界は火宅の如し」

「魔道への呪願」

天変地異の多い世の中では、人は精神的な癒しを求めます。宗教というのは、きわめて普遍的な精神の拠り所なのだ。

 

今では大魔縁と呼ばれている天夢も、讃岐に流された後も仏法に夢中になり、懺悔の念を抱いて、自分の血を墨に混ぜて五部の大乗経を写したことがあった。写経が終わった後、保元の乱の犠牲者の魂を慰めるため、お経を京都に送らせ、寺に納めさせたいと思った。

しかし、そんな願いも許されなかった。動乱の勝者である後白河天皇はお経を受け取った後、呪いがかかっていると判断し、五部の大乗経を讃岐に返却するよう命じた。

最後の願いまで踏みにじられた天夢は、ついに絶望し、「皇を取って民とし民を皇となさん」と誓願し、五部の大乗経をすべて海底に沈めた。こうして、日本国の大魔縁が誕生した。

 

自らの罪に対する懺悔なのか、勝者に対する呪いなのか、そして過去への追憶なのか…天夢がどんな思いでお経を写していたのか、もはや分からないかもしれない。

しかし、どちらの感情も、それほど深いものであるのは確かなことだ。それらは絡み合い、もつれていた。万丈深海の底——懺悔、悲嘆、呪い、未練…様々な感情が交錯し、その本体であるお経も、付喪神が生まれてきていた。

五部大乗経の一つに自分の名を冠した付喪神は、光のない深海の底で、来る日も来る日も、自分の中に宿った旧主の感情を繰り返し味わっていた。時の流れの中で、彼女は自分と旧主の繋がりがますます薄くなっていることを感じた。

——罪深い人でも正果を得ることができ、すでに成仏したのだろうか、と。

むろん、海底に閉じ込められた彼女は、旧主が境界が隔てられた幻想の地に入ったことなど知る由もなかった。

 

そして世の幾多の移り変わりを経たある日、彼女は遠い彼方にかすかに旧主の気配が浮んでいるのを感じた。

その日、妖怪の山でのんびり過ごしていた天夢は、ふと気がつき、久しぶりに写経を始めた。

これは華厳にとっては最も良い機会——旧主が写していた経文は、折よく当時の五部の一つ、自分の名前の由来となったものだった。遠く離れた二つの空間が言霊によって共鳴し、ある瞬間、その共鳴は境界を越えた力でさえもあった。

長い間鬱積していた感情が、きっかけを逃すことを彼女に許さなかった。

——誰よりも「彼女」に会いたがっていた。

そして、これを機に旧主を力ずくで境界外へ「引きずり出し」た。

力に制限されているのかも、途中で何か間違いがあったのかも、他の未知の原因かもしれないが、旧主は予想通りに自分の前に現れなかった。

でも大丈夫、旅の果てに「彼女」が出会うのは、きっと自分なのだと。

……

 

積もり積もった感情もいつかは頂点に達し、やがて流砂のように崩れ落ち、海に洗われ、墨も血も色あせて、喜びも悲しみもない余白だけが残ると思っていた。その時、すべての貪、嗔、痴は、もはや存在しないだろう。それこそが、旧主が求めていた境地であり、お経である自分が辿り着いた境地なのかもしれん。

久しぶりに旧主と再会するまで、彼女はふと気づいた。

貪嗔痴であれ、憤慨不平であれ、懺悔と悲嘆、呪いと未練——

一瞬たりとも彼女から遠ざかることなく、これからもずっと彼女と共にあり続けるだろう。

お経である自分にとっては、とんでもない失格だ。

しかし、彼女は落胆するでもなく、心の奥底でひそかに喜んでいる。

彼女は「理想の境地」に足を踏み入れることができなかった。

でも、ついに理想の境地に辿り着いた。

エンディング

讃岐の深い海の底、わずかな光も届かない場所。

そこがすべての始まりであり、旅の終わりでもある。

 

天夢:旅の果てで、記念撮影をするはずだったが、残念ながらカメラは海水に浸かって壊れてしまった。うーん、怨念のこもった海水に浸かった後、心霊カメラになるかも…

華厳:大怨霊に長い間手に取られていたのは、おそらくとっくに心霊カメラだったのだろう。

天夢:それもそうじゃ。まあ、旅が一段落したのだから、そろそろ帰って第二の人生を楽しもう。

華厳:第二の人生といっても、うまくいったわけではないんだろう。人を陥れようとしたが、自分は先に捕まり、準備万端の新聞大会も同僚に敗れ、崇拝されている程度人気投票でさえ後来者に追い越されている…という情けない光景はまるで昔と同じ。

天夢:な、なぜそこまで知っておる…?!

華厳:我は汝が写した経なんだから、それを通じて汝の記憶を読み取るのは簡単だろう。

天夢:余計なことを言ったな。海から地上に連れ戻そうかと思ったのじゃが、これじゃ御免——記憶読み取り装置を持ち歩く気にはなれん。

華厳:それはちょうどいい、もう静かな海底に惯れていた。

金谷の花、南楼の月、さすがに一炊の夢にすぎない。世の中の苦海よりも、こっちの海の方が我には合っている。

天夢:海水に浸かって色あせたら、注意しなかったとは言うな。

華厳:釈尊栴檀の煙を免れず、天人はなお五衰があり、我もこの理の外にはいない。

しかし、血色が海に洗われて消えるとしたら、何百年の恨みも色あせてしまうのだろうか。

天夢:最後にならぬと、誰がはっきり言えるじゃろうか。

華厳:……

天夢:まだ言いたいことがあるようじゃ、な。

華厳:さすがは我が旧主。

そう——縁切り、蹴鞠、天狗、和歌——

これらはすべて「汝」だ。汝の在り方は、怨霊どころの話ではない。

恐れられ、敬われ、憎まれ、そして愛されてる汝は、この世のあらゆる人と違わない。

天夢:それはうぬの言うことじゃないが……でも、一応お礼を言っておこう。

華厳:礼は結構だ——先程の一戦で消耗したので、もう汝を送り返す余裕はない。

天夢:なめられておたな。わしが喜んでくれなければ、うぬの力でわしを引き寄せることができると本気で思っておるんかい。

華厳:実は、我もそうだと思う。いずれにしても、汝がまだ世の中でもがき生きていることを知っていれば、それで十分だ。

所詮、我も悟れなかった失格者にすぎない。

天夢:それならちょうどいい。浄土に行けないのなら、一緒に地獄に行ってはどうじゃ。そこにも寺があれば、そのときは丹念に願文を書き、うぬを最も立派な寺に納めなければならん。

天夢:あいつがまた邪魔をしてきたら、ぶっ飛ばしてやるぞ。

華厳:それは楽しみだな。(棒読み)

夕暮れ時、夕日が沈む。夕風は少し涼しげに岸を渡り、海に立てた波は寄せては返す。

天と海は、ただ、何事もなかったかのように、しんとしていた。

 

天夢:もう夕暮れなのか…そろそろ帰る時じゃ。

天夢:そういえば、ここの景色はまことに目を楽しませてくれるんじゃな。

残陽は血色に染まり、遠山は墨をまとい、波は幾重にも重なり、鳥が巣に帰る…讃岐の景色がこれほど美しいものだとは、今まで気づかなかった。

今度、禍公たちも連れて来てみよう。

天夢:ところで、ここのうどんも絶品と言っていいほど…

 

夕闇の中、夢うつつの狭間の旅は、ようやく一段落した。

次の十年、百年、そして千年、世の中の風物がどのように流れていくのか、今のところ誰にもわからない。

しかし、どんなに移り変わっても、波のような思いがある。一朝遠くへ行っても、いつかどこか感懐の夕暮れに、見てきた風景を携えて、再び押し寄せてくる。

一度も遠ざかったことがないように。

 

【苦海の理を知るとも、栄花の無常を哀れむ】

 

ここまで読んでくれたあなたに感謝します!

 

おまけ